岡山県玉野市に伝わる社寺にまつわる伝説

霊験あらたか、いざりも直した大師尊像

滝の早滝比盗_社裏の急坂を登ると、昔、景観も近在に誇った一の滝がある。

 

ここから急に視界が開けて静かな山村がある。ここは、その名のとおり、山村という。

 

この部落には小さなお堂が二つあって、東側の草むしたお堂は、荘内滝、正蔵院の奥の院になっている。このお堂の前には板に墨で"いわれ"が記されている。大正七年に書かれたもので、半ば消えかかっているが、大体次のことが書かれている。

 

蔓延元年二月二日、備中国、川上郡平田村の住人で姓はわからないが、名を徳次郎という青年がいた。この徳次郎は18才であったが、足が立たない不具者であった。この男には14才になる弟がいて、弟に車を曳かせて、児島大師霊場を巡拝することになった。

 

ちょうど、六十五番霊場の正蔵院の奥の院へ巡拝し、二夜三日にわたり、祈祷をしたところ、霊尊のご利生によって、にわかに足が立つようになった。

 

徳次郎は一人で自由に歩けるようになり、これまで乗っていた車は不用になった。徳次郎と弟はともにおどりあがって喜んだ。

 

そのお堂の霊尊のあらたかなおかげで、心身共に勇気が充ちあふれてきた。車は、その記念として、そのお堂に献納し、喜び勇んで帰途についた。

 

あくる年の春、再び、徳次郎は大願成就のお礼に霊場を巡拝した。世の人も、この大師尊像のありがたいこと、実に恐れ多いことだといい合った。

 

地区の人は、"いざりの車"といって第二次世界大戦の終戦頃まであったという。

 

「玉野の伝説」

著者:河井康夫

発行:昭和53年

 

 

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