お菊明神
向日比二丁目の明神鼻に登ると、向日比の港が一望のもとである。この明神鼻に、みかげ石造りの小さな社が松林のなかにひっそり建っている。これを地区の人はお菊明神と呼んでいる。この社にまつわって次の伝説がある。
昔、向日比にお菊という評判の親孝行な娘がいた。彼女は貧しい漁師の娘であった。
父親は働きのないなまけ者で、毎日、酒を飲んでは、仕事を休むことが多く、そのため家はますます貧乏になっていくばかりであった。
そんななかで、お菊は一生懸命働き、家の手助けも良くしていたが、何かのことで父親と口あらそいになった。「子供のくせに、親に逆らうとは何ごとか」とばかり、父親はお菊を叱りつけ、酒の勢いもあってか果ては縄でしばりつけ、海に投げこむという乱暴なせっかんをした。お菊はこの時の父親の乱暴な仕打ちがもとで、間もなく死んでしまったのである。村の人たちは父親の仕打ちを憎んだが、それよりもお菊がかわいそうでならなかった。
近所の子守りなどもよくし、可愛がられていたのであろう。やがて、誰からともなく、お菊の霊を祀ってやろうではないかということになり、港の見える岬の上に小さな社を建ててお菊明神として供養をつづけている。
今も、お菊は豊漁と漁場の安全を護ってくれると信じられ、漁師の信仰は厚く、毎年欠かさず祭りが続けられている。この社の側面には天保十四年卯天九月吉辰日、氏子中世話人与吉良繁造、清五良とある。この話しも、江戸も末の話しであろう。
「玉野の伝説」
著者:河井康夫
発行:昭和53年
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